アレキサンドライトの姫君
「エーデル。少し待っていてくれ」
ディルクはそう小声で告げると、夜会の談笑の輪の中に入っていった。
この席の後ろにはミーナも控えているため、一人きりになるわけではない。それに、この大広間にいる限り騎士団に見守られ、これだけの群衆の目もある。ディルクが少し離れたところで何かが起こるはずもない。
エーデルはミーナが差し出したグラスに口をつけ、発泡葡萄酒の芳醇な香りを味わってからゆっくりと嚥下した。
そこへ。
「エーデルシュタイン様」
先ほど挨拶を交わしたであろう招待客の一人、エーデルと同じくらいの年頃の娘に声をかけられた。
少し気の強そうな雰囲気ではあるが美しい容姿のその令嬢もまた、洗練された見事なドレスをさらりと着こなしまさしくハインリヒ王国の令嬢といった雰囲気である。
自分だけが着席しているのもなんだか憚られ、エーデルは席を立って彼女へと歩み寄った。
「先ほどもご挨拶させていただきましたけれど。私はアンネリース=マリア・フォン・シュヴァルツブルクです。以後お見知り置きを」
あまりに大人数と挨拶を交わしたので、名前と顔が一致しないどころかほとんどの者を覚えていない。しかし、シュヴァルツブルク家のことは女官長から学んで知っていた。
シュヴァルツブルク公爵家。
それは、この国で王家に次いだ高位にあり、貴族の中で最も権力を持つ家柄である。
その公爵家の令嬢が一体何の用なのだろうか。
訝しげに思いながらも、エーデルはドレスを広げて会釈をした。
「率直に申し上げますわね。貴女という存在がなければ、ディルク様の妃になるのはこの私でしたのよ」
ディルクはそう小声で告げると、夜会の談笑の輪の中に入っていった。
この席の後ろにはミーナも控えているため、一人きりになるわけではない。それに、この大広間にいる限り騎士団に見守られ、これだけの群衆の目もある。ディルクが少し離れたところで何かが起こるはずもない。
エーデルはミーナが差し出したグラスに口をつけ、発泡葡萄酒の芳醇な香りを味わってからゆっくりと嚥下した。
そこへ。
「エーデルシュタイン様」
先ほど挨拶を交わしたであろう招待客の一人、エーデルと同じくらいの年頃の娘に声をかけられた。
少し気の強そうな雰囲気ではあるが美しい容姿のその令嬢もまた、洗練された見事なドレスをさらりと着こなしまさしくハインリヒ王国の令嬢といった雰囲気である。
自分だけが着席しているのもなんだか憚られ、エーデルは席を立って彼女へと歩み寄った。
「先ほどもご挨拶させていただきましたけれど。私はアンネリース=マリア・フォン・シュヴァルツブルクです。以後お見知り置きを」
あまりに大人数と挨拶を交わしたので、名前と顔が一致しないどころかほとんどの者を覚えていない。しかし、シュヴァルツブルク家のことは女官長から学んで知っていた。
シュヴァルツブルク公爵家。
それは、この国で王家に次いだ高位にあり、貴族の中で最も権力を持つ家柄である。
その公爵家の令嬢が一体何の用なのだろうか。
訝しげに思いながらも、エーデルはドレスを広げて会釈をした。
「率直に申し上げますわね。貴女という存在がなければ、ディルク様の妃になるのはこの私でしたのよ」