【完】『そろばん隊士』明治編
◇4◇
河原町御池の洋学所へ戻ると、井戸に蓋とおぼしき厚手のムク板を渡し、その上に八重が座って涼んでいる。
「…八重どの、あぶのうござる」
岸島は肝を潰した。
「このぐらいやって涼まねば、京の夏は暑うてかないませぬ」
八重は平然と何やら書物を読んでいる。
視線すら岸島に向けない。
まず井戸に板を渡して座るというのも豪胆だが、書物を読む女というのも、この時代にはまず珍しかった。
何から何まで驚きである。