【完】『そろばん隊士』明治編
そうした暮らしが約半年ばかり過ぎた。
年が明けてほどなく、岸島は菅原屋の帰りに何気なく西本願寺へ立ち寄ってみた。
かつての屯所である。
御影堂や境内のたたずまいは変わらない。
すると。
「岸島くんではないか」
声がした。
振り向くと、
「俺だよ、島田だよ」
坊主頭だが、間違いなく島田魁である。
「京に戻っていたのか」
「島田どのも、よう箱館から戻られた」
島田が土方や尾関雅次郎とともに箱館まで渡って戦ったのは聞いていた。
その後は降伏したあと謹慎となり、廃藩置県のあとの恩赦で召し放たれたのも知ってはいたが、京にいるのまでは知らなかったらしい。
「おぬし今は何をしておる」
「洋学所で相変わらずそろばんをはじいておる」
「おぬしはそろばんが出来るゆえな」
島田は懐かしさですっかり表情が緩んでいた。