【完】『そろばん隊士』明治編
それを聞いて、
「今一度、桂に掛け合ってはいかがかと」
岸島は言った。
「いや、どうだろう」
新島は何とも答えがたいというような顔をした。
「…こんなことになるなら、近江屋か升屋で待ち伏せて斬ればよかったやもしれぬ」
思わず岸島は口が滑った。
「…待ち伏せて斬る?」
岸島ははたと気づいたが、もう話さざるを得ない。
「実はそれがし、かつて新撰組におりまして」
岸島は訥々と語り始めた。
新撰組ではあったが勘定方でほとんど見回らなかったこと、人を斬ったのは油小路のときの服部武雄と、介錯の赤座伍長ぐらいであること、そして、
「実は、桂を斬ろうとしていた」
ということをである。