【完】『そろばん隊士』明治編
しばらくして。
「手塚先生!手塚先生!」
と夜中に戸板を叩く音がする。
開けると伝馬町の役人からの小使で、
「川崎尚之助の容態が急変した」
というので、伝馬町から病人が移る浅草の鳥越にある長屋へ行くと、
「…先生、息が」
見るとすでに息が薄い。
「これは…明け方まで持てば、なんとかなるか分からねぇが」
手塚は厳しい顔をした。
薬箱を持った岸島も、これは危ないというのだけは、素人ながら一瞥しただけで分かった。
手早く襷をかけ、
「まずは気付けを」
わずかだが手塚家で居候をしていたから、岸島もある程度なら薬ぐらいわかる。
手渡した。
「…白湯を」
薬を川崎に飲ませた。
「ようやく生気を取り戻したかな」
「…あれを」
川崎が指差した先には冊子がある。
「この日記を、山川さんに」
どうやら山川大蔵に渡してほしいらしい。