【完】『そろばん隊士』明治編
翌日、小野権之丞のつてで山川家を岸島は訪ねてみた。
「これはこれは、ご足労お疲れ様にございます」
と岸島を出迎えたのは、山川家の姉の二葉であった。
「こちらを」
在宅していた山川大蔵は、このとき山川浩となっている。
「川崎どのの日記か」
「これを、いまわの際に山川どのに渡してもらいたいと」
岸島は様子を見たまま語った。
「川崎どのは、藩を守るために罪をかぶったのだ」
山川は、沈痛な顔で言う。
「貴殿は新撰組で勘定方であられたそうだが」
山川は関心を岸島に向けることで、気をそらそうとしたのかも知れない。
「今は山本どのの洋学所におります」
「そうか」
新撰組には迷惑をかけた、と山川は言った。
「会津の家老として、この通り」
頭を下げた。