【完】『そろばん隊士』明治編
「お手をお上げくだされ」
それがしは迷惑など思うたこともござらぬ、と岸島は言った。
「他の隊士はどう思うていたか分かりませぬが、それがしはむしろ、新撰組であったことを誇りとしておりまする」
岸島は毅然と言った。
「それならば、むしろかたじけのう存ずる」
山川は言った。
「わが殿も、家中や新撰組を巻き込んでしまったことだけは、悔いておられた」
朝廷に忠義を尽くしたことは間違いではなかったが、不本意な戦いに大勢を巻き込んでしまったことだけは、どうやら悔やんでいたらしい。
岸島は胸中が清々しくなったようで、
「京へ戻り次第、そのことお伝えいたそうと存ずる」
そう言って、山川家を岸島は辞した。