【完】『そろばん隊士』明治編
◇11◇
洋学所へ岸島が戻ると、
「岸島さん、どうもあなたを嗅ぎ回る人があるようです」
と知らせてくれたのは新島である。
というのも。
「洋学所に新撰組にいた者が出入りしている」
という噂が府庁にたれ込まれ、槙村のもとへ東京にいた元隊士の巡査が送り込まれた、というのである。
「幸い、大垣屋さんがかくまうという段取りがついているそうですから、急いでそちらへ」
という新島と山本のはからいで、その日のうちに岸島は洋学所を引き払った。
が。
まだ原田の形見の件もある。
岸島としては、京を離れるわけには行かない。
川崎の形見の行李は、新島に託した。
「これは八重どのと離縁した、川崎どのの形見が詰まっておる」
新島は請け合った。