【完】『そろばん隊士』明治編
岸島に頼まれた通り新島が行李を八重に渡すと、
「岸島さまが?」
新島はうなずいた。
「…これは」
蓋を開くと、一通の書状が出てきた。
「岸島さんは、川崎どのの最期を看取られたそうです」
その様子を記した内容で、例の裁判の顛末も事細かに書かれてあった。
「尚之助さまは、私に迷惑をかけまいと」
「どうやら、話を聞く限りそういう仔細のようですね」
読み終える頃には、八重は泣いていた。
新島は見守るしかない。
「しかし八重さん、あなたには川崎さんが生きていたことを、あなたなりの形で残す使命がある」
「使命?」
「それはあなたが決めることですが、あなたが動けば、あなたと共にいた川崎さんのことも人に知られましょう」
無駄にしてはならない、と新島は言った。