【完】『そろばん隊士』明治編
その頃。
大垣屋清八のもとで手習いをしながら過ごしていた岸島のもとへ、
「原田さんの奥方が見つかりました」
という報せが来た。
「祇園町の梅野屋で女中をしているそうです」
ちなみに祇園町の梅野屋というのは高台寺と目鼻の先にあり、かつて太閤秀吉の厨番であった梅野玄蕃を初代とする。
ここの女将には独特のならわしがあって、長女の結婚は許されないこと、また長女は娘を儲けたら店を嗣がせること、という制度があって、おまさはその女将のもとで働いていた。
「梅野屋、か」
聞いたことはあった。
確か桂小五郎の馴染みの店の一つのはずである。