Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
もちろんそんな話は初耳で、私は目が点になってしまった。
呆然とする私を見て、彼は愉快そうに口の端を上げる。

「そのあとね。酒を飲みに行って、小一時間、君の魅力について語られたよ。自分の仕事でもないのに『商品開発部』の仕事を手伝って随分と残業していたんでしょう? 『自分の身を犠牲にして、困っている人に手を差し伸べるやつだ』だって。あの人、酒入ると熱くなるタイプでさ、『現代に生まれ落ちたマザーテレサ』とまで言ってたかな。笑っちゃうよね」

言葉通り、彼はケラケラと笑って身を捩る。

「いつの間にか、俺まで洗脳されてた。まだ一言も交わしたことのない華穂ちゃんが、俺の中でどんどん存在感を増していって、気づけば理想の女性像になっていた。とうとう田所さんが自分の部署に引き抜いて、紹介してやるって言われたのが初対面のあの日。緊張したなあ。ずっと想いを馳せていた女性が目の前にいるんだもん」

緊張してた? そんな素振り、まったく見えなかったけれど。
どちらかと言えば、固まっていたのは私の方だ。

「でも、実際に会ってみたら、予想とは違っていた。誰にでも分け隔てなく優しい、女神のような人だと聞いていたのに、実際の華穂ちゃんは俺にだけ冷たくて、全然笑ってくれなかった。仲よくなれば変わるかなと思って、いろいろ声をかけてみたけれど、仲は深まるどころがどんどん溝が出来ていって、ああ、俺、嫌われてるんだなって」

悲しそうに笑う御堂さんにいたたまれなくなって、私はうつむいた。
彼がそんな風に考えてくれていただなんて、私は全然しらなかったから。

「そこからはもう、意地だった。なんとしてでも笑ってもらおうと思ったよ。全然うまくいかなくて、気がついたらもう二年も経ってた。まぁ、こんな関係でも仕方がないかなってあきらめ始めた頃、やっと華穂ちゃんが言ってくれたんだ。初めてこのオフィスを訪れて、見せたくもなかった恰好悪い姿を晒してしまったとき。『みっともないくらいの御堂さんが好きです』って。あのとき、ちょっとだけ笑いかけてくれたよね」
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