Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
大幅な残業になってしまい、会社を出る頃には二十二時に近かった。
オフィスビルを出ると、夜だというのにぬくぬくとした空気に満ちていて、季節は初夏に向けてまっしぐらであることを知る。
一応スプリングコートを着てきたけれど、もういらないな、そんなことを考えながら歩いていると。
「佐藤華穂さんですか」
突然背後からフルネームで呼ばれ、私は驚いて立ち止まった。
振り返ってみると、白くてふんわりとしたバルーン型のコートに身を包んだ栗色の髪の女の子が立っており、私の顔を確認して深々とお辞儀をした。
「待ち伏せするような真似をして申し訳ありません。私、橘千里と申します」
礼儀正しく名乗った彼女は間違いなく、あのときパーティー会場で出会った『千里さん』――御堂さんの婚約者、その人だった。
「少しだけ、お時間をいただけないでしょうか」
どういうこと……? なぜ彼女がこんなところに……?
困惑していると、すぐ近くの路肩に止まっていた車がプッ――という短いクラクションを鳴らした。
赤くスポーティーな形をした車体のドアウィンドウから顔を覗かせたのは、あの日同じくパーティー開場で初めて出会った陣さん。
「仕事で疲れてっとこ、悪い。どうしてもコイツが、あんたと話したいっていうから――」
話って、私に?
わからないことだらけだったけれど、ひとつだけ確かなのは、真摯に頭を下げる女の子のお願いを断るなんて、できっこないってことくらいだ。
オフィスビルを出ると、夜だというのにぬくぬくとした空気に満ちていて、季節は初夏に向けてまっしぐらであることを知る。
一応スプリングコートを着てきたけれど、もういらないな、そんなことを考えながら歩いていると。
「佐藤華穂さんですか」
突然背後からフルネームで呼ばれ、私は驚いて立ち止まった。
振り返ってみると、白くてふんわりとしたバルーン型のコートに身を包んだ栗色の髪の女の子が立っており、私の顔を確認して深々とお辞儀をした。
「待ち伏せするような真似をして申し訳ありません。私、橘千里と申します」
礼儀正しく名乗った彼女は間違いなく、あのときパーティー会場で出会った『千里さん』――御堂さんの婚約者、その人だった。
「少しだけ、お時間をいただけないでしょうか」
どういうこと……? なぜ彼女がこんなところに……?
困惑していると、すぐ近くの路肩に止まっていた車がプッ――という短いクラクションを鳴らした。
赤くスポーティーな形をした車体のドアウィンドウから顔を覗かせたのは、あの日同じくパーティー開場で初めて出会った陣さん。
「仕事で疲れてっとこ、悪い。どうしてもコイツが、あんたと話したいっていうから――」
話って、私に?
わからないことだらけだったけれど、ひとつだけ確かなのは、真摯に頭を下げる女の子のお願いを断るなんて、できっこないってことくらいだ。