Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
佐藤華穂。社会人歴四年。
大学卒業後、文具やインテリア雑貨の商品企画、製造、販売をトータルに扱う大手商社『株式会社トレジャーフィル』の総務として入社した。

総務と言えば聞こえはいいが、いわゆる事務職員だ。
電話応対やオフィスの管理、経理補佐、社内行事の企画運営などが主な役割。

しかし、日々残業を繰り返す商品開発部のメンバーを率先して手伝うようになり、気がついたら総務部よりも商品開発部にいる時間の方が長くなっていた。
そんな私の働きが田所部長の目にとまって、『総務』から『商品開発部所属の総務』として引き抜かれたのが二年前。
それ以来、商品開発補佐、兼事務という曖昧なポジションで働いている。

開発補佐といっても、出来ることは簡単なドキュメントの修正だったり、印刷だったり、書類のホチキス止めだったり。
開発のノウハウを知っているわけではないし、やはり事務員は事務員。立場はわきまえなければならない。

出来ることの少ない自分を、歯がゆくも感じていた。
それから、『開発』という仕事への羨望も――。

デザイン系の大学を卒業した私は、本来なら御堂さんと同じ『デザイナー』という立場に立っていてもおかしくはなかった。
商品のデザイン案を作り、プレゼンする――そんな仕事に憧れを持っていた学生時代。
それなのに、今の私は、デザインとも開発ともまったく無縁の、事務職に就いている。

未練は就職を決めたときに吹っ切ったはずなのに、今でも悔しさが心の奥底で燻っていた。
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