Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
会議室はオフィスの端にあり、通路側にある私のデスクからだとギリギリ視界に入る。
一時間くらい経った頃だろうか。バラバラとメンバーが外に出てくるのが見えて、打ち合わせが終わったのだと知った。
田所部長が自席へ戻りがてら私のところにやってきて「いつもの、頼んだよ」と椅子の背もたれをパンと叩く。
お客様のお見送りも、私の仕事である。
会議室のドアの前に立ちながら、ニコニコと手を振る御堂さんの姿が見えた。
「無事に提案が終わって、次の打ち合わせはしばらく先になりそうなんだ。華穂ちゃんの顔を見れないと思うと寂しいな」
エレベータを待ちながら、御堂さんは頭のうしろで手を組んで、ため息を溢した。
彼の言葉の九割は嘘で出来ているのだと確信している。『寂しいな』もあらかた社交辞令だろう。
とはいえ、先ほどの田所部長とのやり取りも気になっていた。
ちらりと覗き見たところで、ちょうど彼と目が合ってしまって、失敗したと思った。
なになに? という期待に満ちた顔をされてしまったので、躊躇いながら訊ねた。
「……徹夜で仕事をされて、体調は大丈夫ですか?」
「ああ、そのこと?」
御堂さんが、困ったように眉尻を下げる。
「……言っただろう? 徹夜なんかしてないよ」
「そうなんですか?」
「これが徹夜明けの疲れた顔に見える?」
いいえ。全然見えません。いつも肌はきめ細やかで綺麗だし、くまひとつ出来てません。
なぁんだ、やっぱり違うのか。
こんな飄々とした人が、徹夜で頑張ってる姿なんて、似合わないものね。
どこか安心したような、がっかりしたような複雑な気持ちを抱えて、彼と一緒にエレベータへ乗り込む。
「大切なことは、俺が徹夜をしたかどうかではなくて、求めるクオリティを満たしているかどうかだしね」
そうですね、と私は頷いた。
もう社会人の私たちには、努力をしたか、していないかなんて関係ない。
出した結果がすべて。その裏にどんな苦労があったとしても、評価してもらえる歳ではないんだ。
けれど。もし彼が徹夜をするほど仕事に熱意を持った人なら。
今より少しだけ、好きになってもいいかなぁなんて、思っていたのだけれど。
私はどちらかというと、『仕事が出来る人』よりも『仕事を頑張る人』の方が好きだ。
一時間くらい経った頃だろうか。バラバラとメンバーが外に出てくるのが見えて、打ち合わせが終わったのだと知った。
田所部長が自席へ戻りがてら私のところにやってきて「いつもの、頼んだよ」と椅子の背もたれをパンと叩く。
お客様のお見送りも、私の仕事である。
会議室のドアの前に立ちながら、ニコニコと手を振る御堂さんの姿が見えた。
「無事に提案が終わって、次の打ち合わせはしばらく先になりそうなんだ。華穂ちゃんの顔を見れないと思うと寂しいな」
エレベータを待ちながら、御堂さんは頭のうしろで手を組んで、ため息を溢した。
彼の言葉の九割は嘘で出来ているのだと確信している。『寂しいな』もあらかた社交辞令だろう。
とはいえ、先ほどの田所部長とのやり取りも気になっていた。
ちらりと覗き見たところで、ちょうど彼と目が合ってしまって、失敗したと思った。
なになに? という期待に満ちた顔をされてしまったので、躊躇いながら訊ねた。
「……徹夜で仕事をされて、体調は大丈夫ですか?」
「ああ、そのこと?」
御堂さんが、困ったように眉尻を下げる。
「……言っただろう? 徹夜なんかしてないよ」
「そうなんですか?」
「これが徹夜明けの疲れた顔に見える?」
いいえ。全然見えません。いつも肌はきめ細やかで綺麗だし、くまひとつ出来てません。
なぁんだ、やっぱり違うのか。
こんな飄々とした人が、徹夜で頑張ってる姿なんて、似合わないものね。
どこか安心したような、がっかりしたような複雑な気持ちを抱えて、彼と一緒にエレベータへ乗り込む。
「大切なことは、俺が徹夜をしたかどうかではなくて、求めるクオリティを満たしているかどうかだしね」
そうですね、と私は頷いた。
もう社会人の私たちには、努力をしたか、していないかなんて関係ない。
出した結果がすべて。その裏にどんな苦労があったとしても、評価してもらえる歳ではないんだ。
けれど。もし彼が徹夜をするほど仕事に熱意を持った人なら。
今より少しだけ、好きになってもいいかなぁなんて、思っていたのだけれど。
私はどちらかというと、『仕事が出来る人』よりも『仕事を頑張る人』の方が好きだ。