Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「らしくねぇ。ほだされやがって」

不愉快そうにうろつく陣さん。

私の目の前には、陣さんが手土産として持ってきてくれたケーキの箱が置いてある。
けれど、こんな状況になってしまって、さすがに誰も呑気にケーキを食べようだなんて言いださなかった。

「ごめんなさい、せっかく持ってきてくださったのに。明日ゆっくり食べますね」

「ああ……やったもんだし、好きにしてくれ」

給湯室の冷蔵庫にケーキの箱をしまうと、陣さんは横の壁にもたれ、気持ちを切り替えるかのように大きく息をついた。

「まぁ、ケーキなんか、好きなときに、いくらでも作ってやるよ。あんたの好きなもの詰め込んだ、オーダーメイドのどでかいやつ」

『どでかい』のところで手を大袈裟に広げてニッと笑う。
もしかして、私を励まそうとしてくれているのだろうか。

「ありがとうございます」

すると、陣さんは腰を屈めてまじまじと私を覗き込んできた。
突然の距離感に驚いて見返すと、彼は目の前でニッと笑った。
その微笑みは、私を気遣うというよりは、随分と挑発的で――

「だから、夕緋のことはさっさと忘れて、俺のところに来いって」

そう言って私の頬に手を伸ばしてきたから、思わず一歩後ずさってしまった。
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