Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「陣。君も、ここにひとり残る気はないだろう。行くぞ。タクシーを用意するから……」

「いらねぇよ。俺は狙われそうにねぇもん。歩いて帰る」

陣さんは不機嫌そうにジーンズのポケットに手を突っ込んで、部屋の入口に佇む私と御堂さんの間をかき分けた。

「じゃあなー夕緋。お大事にー」

私たちを置いてさっさと階段を降りると、なんだか投げやりに吐き捨てて、そのままビルの外へと出ていった。

陣さんが見えなくなったところで、御堂さんは私の肩に回していた手を解いた。
私を包む温もりが消え、身体が不自然に軽くなる。緊張が解けると同時に、やけに寂しく感じた。

「行こう。外にタクシーを待たせてある」

そう言って、御堂さんはこちらを振り返ることなく、階段を下り始めた。

気まずい。目線を合わせてくれない。
もしかして、怒ってる?
いろんな男の人とほいほいキスするような女だって、思われた……?

不安に駆られながら、黙って彼のあとに着いていくと、タクシーに乗る直前、御堂さんが口を開いた。

「華穂ちゃん」

御堂さんが私の名を呼んだ。今度は呼び捨てではなく、他人行儀に『ちゃん』を付けて。

「はい……」

彼はすごく冷静なのに、その優しい言葉遣いとは裏腹に表情は全然笑っていなかった。

「君と陣は、どういう関係?」

えっ、と漏らして目を見開く。
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