Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
上京して独り暮らしをしている私には、一緒に祝ってくれる家族もいないし、去年まで一緒に過ごしてくれた友人は子どもの出産を期に疎遠になってしまったし。彼氏は……言わずもがな。

二十七歳、ひとりきりの誕生日。
仕事が入ってくれて、ちょうどよかったのかもしれない。

私は定時過ぎに会社を出て、駅と隣接する百貨店でお菓子の詰め合わせを購入した。
手土産を準備し終えると時刻は十八時十五分。ちょうどよい頃合いだ。
私は会社から数駅離れたところにある、御堂さんの経営するデザイン会社へと向かった。

駅を出て、大通りから一本裏手に入った住宅と中小企業の事務所がひしめく路地に、目指す住所はあった。
隣接する周囲の建物は古いけれど、その事務所だけはくすみのない真っ白な外壁をしていて、最近建てたばかりであることが分かる。

五階建てで、敷地はそれほど広くないが縦に長いスラッとしたビルだ。
入口のガラスドアには『デザイン会社M’s』の文字。中に入ると、電話機がひとつ置いてあり、横に受付の番号が書いてあった。

受付に電話をかけると、すぐさま可愛らしい声の女性が答えて、まだ名乗ってもいないのに『二階へどうぞ』とオートロックの扉を解錠してくれた。

入ってすぐに、応接スペース。ビルの外観と同じオフホワイトの壁。床や調度品は木目調で、落ち着いた印象のダークブラウン。

要所要所にハッとするようなオレンジや赤のインテリアが飾りつけられていて、デザイン会社らしいモダンでスタイリッシュな内装だった。

すぐ横に螺旋型のおしゃれな飾り階段があって、奥にはエレベータ。階段を選び昇り始めてすぐ、上階の話し声が響いてきた。

「ダメだ。納得できない」

聞き覚えのある声だった。
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