Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
うなだれる彼の頬に手を伸ばし、そっと顔を押し上げた。
びっくりするくらい情けない彼の表情は、いつもより子どもっぽく見えて――初めて彼を愛らしいと思った。

「私、後悔なんてしてません……御堂さんのこと……」

――好き、だなんて言ったら、困らせてしまうだろうか。
なんの取り柄もない平凡な私が、あらゆるものを持っている御堂さんのことが好きだなんて、厚かましいかもしれない。
それでも伝えなければ、きっとこのまま縁を切られて終わってしまうだろう。そんなのは嫌だ。

「できることなら、これからもずっと、そばにいさせてほしいって……」

だんだんと尻つぼみになってくる。自分に自信なんて、これっぽっちもない。

そんな私を慰めるかのように、御堂さんはそっとこちらへ手を伸ばしてきた。
背中に優しく触れ、私の胸に顔を埋める。

「俺も華穂のそばにいたい」

唇を胸に押しつけるようにしてくぐもって聞こえた声は、子猫のように甘えん坊だった。
トクン、と胸が疼いて、母性がくすぐられる。私を求めてくれた彼を抱きしめたいと思った。
欲望に駆られ彼の背中に手を伸ばした、そのとき。

彼が私の身体を突き返して、ふんわりと笑った。
優しい笑顔の中に混じる悲哀の感情に気がついて、どうしてそんな顔をするのだろうと不安に苛まれた。

「でもね。俺は華穂ちゃんを犠牲にしてまで願いを叶えようとは思えないよ」

それは拒絶だ。それが彼の最終的な答えなのだろうか。胸の中が絶望に満たされる。
< 141 / 249 >

この作品をシェア

pagetop