Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「ごめん、弱気になってた。俺がしっかりしなくちゃいけないのに」

自分を奮い立たせるように、パンッ、と両頬に手のひらを打ちつけ立ち上がる。

彼には私の助けなんか必要ないのだと思い出して、急に虚しくなった。
彼は強い――いつだって他人に弱みなんか見せず乗り切ってきた人だ。

自分を取り戻した彼は、膝をついてぼんやりとする私を支え立ち上がらせた。

「いずれにせよ、このままここにいるわけにはいかない。しばらく家を出て、身を隠そう」

「出るって、いったいどこに……」

「場所は俺がなんとかする。巻き込んでしまった以上、責任は取るから」

それがまるで義務かのように無感情に告げる。

「荷物をまとめてくれ。安全な場所へ移動する」

それだけ言うと、部屋の入口のところで腕を組み壁にもたれた。
外界からの全ての干渉をシャットアウトするかのように固く瞳を閉じる。もう私の言葉も聞き入れてはくれなさそうだ。

仕方なく私は部屋のクローゼットから外泊用のボストンバッグを取り出し、数日間生活できるだけの荷物をまとめた。
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