Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
外へ出るのを怖がった私への配慮だと思う、移動中も手だけはしっかりと握り続けていてくれた。

タクシーの後部座席で隣に座る御堂さんを横目で確認すると、ただひたすら外の景色を眺めながら難しい顔で考え込んでいた。
話しかけられるような雰囲気じゃなかったから、私は黙って繋がれた手の暖かさだけを信じることにする。

「着いたよ」

辿り着いたのは、パーティー会場のあったシティホテルだった。玄関の前にタクシーを止め、荷物を降ろす。
遠くの方に御堂さんが手に怪我を負った場所が見えて恐ろしくなった。嫌なことを思い出してしまった。

「この前襲われた場所ですよね、本当に安全なんですか?」

「中に入ってしまえば安全だ」

そう言って御堂さんは受付カウンターへ向かい、中にいた男性スタッフに目配せをした。
この前私たちを最上階の部屋まで案内してくれたベテランスタッフだ。
彼はすかさず台車を運んできて、御堂さんの左手から私の荷物の入ったボストンバッグを受け取った。

「北條さん、しばらくあの部屋で彼女の面倒を見てほしい」

「かしこまりました」

北條さんと呼ばれたスタッフは「こちらへどうぞ」と私たちを奥へ促す。
一般客は入れない施錠された特別なフロアを通り抜け、エレベータに乗る。

連れていかれたのは、パーティーの前に着替えで使っていた超豪華スイートルームだった。
大きなリビングが二つに、プレイルームが二つ、寝室が四つ、ベランダまでついた贅沢な洋室だ。
< 143 / 249 >

この作品をシェア

pagetop