Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
恐る恐る階段を昇っていった先に、扉の開いた部屋があった。
中はオフィスのようで、いくつかデスクが並んでいる。
一階と同じ、ホワイト、ブラウンのベースと、パッションカラーをアクセントにした内装。

そこにふたりの男性がうしろ向きに立っていた。並んでパソコンのディスプレイを眺めている。

「このデザインからは、意図が感じられない。クライアントの求めているものを理解しているのか? 趣味とは違うんだ、ただ見栄えがいいものを作ればいいというわけじゃない」

それは叱責だった。冷静ではあるけれど、内にはっきりとした怒りを含む声色。
ピリピリとした空気が、こちらにまで伝わってくる。

「話にならない。やりなおしてくれ」

そうきっぱりと言い切って、男性がその場を立ち去ろうとする。
しかし、その背を叱られていた方の男性が追いすがった。

「待ってください社長、納期直前ですよ!? 作り直すなんて――」

その言葉に振り向いたのは、私のよく知る人物だった。
スラッとした長身に、ウェーブがかった黒髪、整った顔立ち。

けれど、その表情も語り口も、私の知っている彼とはほど遠くて――。
凍てついた眼差し、有無を言わさぬ圧力。正直、あまりの剣幕に怖いとすら感じてしまった。

「そのクオリティでは、クライアントに説明できない。君がやらないなら俺がやる」

「あ……」

責められていた方の男性が、押し黙った。やがて、泣きそうな声を絞り出す。

「……すみませんでした。やらせてください。もう少し、時間をください」

「……三時間だ」

冷たく言い放った彼は、奥の部屋へと姿を消してしまった。

一連のやり取りを見て、なんだか無性に不安になってしまった私は、胸の前でぎゅっと両手を握りしめる。

……今の、間違いなく、御堂さんだったよね?
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