Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「よくわかっているじゃないか。お前がいつまでもフラフラして、心配をかけるからだろう?」

「そもそもこの婚約で得をするのは相手方――橘家のみだ。親父にはなんのメリットもない。あるとすれば、俺の逃げ場を奪えることくらいだ」

「今すぐ跡継ぎとしてこの会社に腰を据えてくれるなら、父さんも口うるさく言わないんだがなぁ……」

「なぜそこまで焦るんだ。将来的に継ぐ代わりに今は好きにさせて貰うと約束したじゃないか」

「それは二十歳の頃の話だろう。もうすぐお前も三十歳だ。そろそろ自分の立場を理解してもらわなければ困る」

御堂さんがギリッと歯噛みした。
わかっている。御堂さんにだって自分の立場というものがある。
必死に築き上げた自分の会社を、やっと手に入れた自由を、はいさようなら、なんて放り出すわけにはいかない。

御堂さんは呼吸を置いて、冷静さを取り戻してから口を開いた。

「ひとつだけ確認させてくれ。橘家と口約束している取引、あれを実現させるつもりはあるのか?」

「なんだ突然。それをちらつかせて婚約の話を破棄にでもするつもりかい?」

お父様は失笑を浮かべる。御堂さんが一心にお父様を睨んでいるところをみると、図星だったのかもしれない。

「橘家の技術力は日本屈指のものだし、親父も一目置いているはずだ。決して悪い話にはならないよ」

「言われるまでもなく、理解しているよ。タイミングを図っているだけで、遅かれ早かれ、取引は形にするつもりだ。それこそ、焦っているのは彼らだけだよ、勝手に不安がって婚約どうこうと騒いでいるけれど……まぁ、裏切られれば経営が傾きかねないと、戦々恐々なのだろうよ」

「それを聞けて安心した」
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