Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
話がそこまで済んだとき、社長室の重厚な木製のドアがノックされた。
お父様が「はい」と返事をすると、開かれたドアの向こうには数人のスーツ姿の男女が並んでいて「お客様をお連れしました」そう言って道を開けた。
奥から姿を現したのは、五十代半ばくらいの着物姿の女性だった。
いつ見ても気高いその淑女を前にして「これはこれは……」お父様は驚きの声を上げた。

御堂さんがその女性に向かって深く頭を下げる。

「突然お呼び立てして申し訳ありません、橘の伯母様」

どうやらこの場所に彼女を呼んだのは御堂さんだったらしい。
女性はしなやかに草履を擦って私たちのもとへ歩み寄ると、お父様に向けて軽く会釈をした。

「ご子息に緊急の要件と呼ばれ急いで参りましたが……しかしこれはまた、いったいどのような集まりで」

明らかに私を視界の端に捕らえ、眉間に皺を寄せる。
なんだこの小娘は、とでも思っているのかもしれない。

御堂さんが私の肩に手を回し抱き寄せながら言った。

「単刀直入に申し上げます。彼女から手を引いていただきたい」

伯母様は、素知らぬ顔で首を傾げる。

「はて。なにを言っておられるのでしょう?」

御堂さんの眼差しが険悪なものになる。

お父様がパンパンと手を打ちならし、一触即発だった場の空気を掻き消した。
と、同時に扉の脇に控えていた秘書らしき人物が反応する。

「まあまあ、立ち話もなんですから。……おい、お茶とお菓子を頼む」

促され、私たちはソファに腰を降ろす。
コの字型に配置されたソファの、奥に私と御堂さん、その正面に伯母様、斜め横にお父様が座った。

すでにあらかた用意してあったのか、秘書が素早く日本茶と和菓子をテーブルに置き、そそくさと下がる。
仕切り直しだ。御堂さんが改めて口を開く。
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