Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
伯母様はもう一度沈痛なため息をつき、疲れた声を漏らした。

「現に、私の部下に金を与え会社のサーバールームに忍び込ませ、お嬢さんのデータを抜き取るように指示したのです。しかし、あの子自らがそんなことを考えつくとは思えません。裏で誰かが入れ知恵をした可能性は大いにあります。本人も気づかないうちに、犯人に加担してしまっているのかもしれません」

千里さんの行動を操る人物――それがこの一連の脅迫の黒幕なのだろうか。

鉄扉面な伯母様が初めて表情を曇らせた。悲し気にうつむいて、ぼそりとこぼす。

「もしも千里が関わっているとするならば、これ以上、犯罪の片棒を担がせるようなことはしたくないのです」

伯母様がここまで犯人捜しを勧める理由は、千里さんが心配だったからかもしれない。
姪っ子を犯罪者にしたくない……本人に悪意がなくて、巻き込まれているだけなら尚更のこと。
あるいは、身内から犯罪者を出したくないという打算もあるのかもしれないが――いずれにせよ、私たちと伯母様の利害は一致しているみたいだ。

「それならなおのこと、力を貸していただけませんか」

懇願する御堂さんへ、伯母様はけじめをつけるかのごとく表情を引き締める。

「力を貸せと簡単に仰いますが、それがどういうことだかご存じで? 情報を収集するということは、法を犯すと同義なのです。このお嬢さんの個人情報を引き出したことも、本来であれば犯罪なのですよ。それと同じことをしようというのですから、調べるこちら側もそれなりのリスクを背負わなければならないということを理解してください」

彼女の言うことはもっともだった。
どんな理由があれ、本人の同意もなしにプライバシーを暴くことは犯罪だ。
ましてや企業が信頼のもと顧客から集めた個人情報を、私たちが勝手に持ち出して利用するなんて……。
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