Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「この車、千里がよく乗せてもらってるやつだろう。夕緋んとこの会社から出てきたから、てっきり千里だと思って呼び止めたのに。どうしてあんたが乗ってんだ?」

どうやら千里さんが出てくると思っていたらしい。期待を裏切ってしまったようで、申し訳ない気持ちになった。

「実は――」

私はこれまでの経緯を簡単に説明した。
御堂さんと、御堂さんのお父様と、千里さんの伯母様と、四人で会談したこと。
そこで御堂さんは、私の身の安全と引き換えに、お父様の会社を継ぐように、あるいは婚約するように迫られたこと。
御堂さんと別れ、護衛つきで実家へ帰省しようとしていること。

「で。今はその護衛のおっさんと楽しくドライブ中ってとこか」

「はい……楽しくはありませんけど」

「護衛、つまんないやつなのか?」

「寡黙な方です」

「ふーん」

陣さんは腕を組んでしばらく考え込んだあと「ちょっと待ってろ」なにかを思いついたかのように私の乗ってきた車へと向かった。
運転席の窓ガラスをコンコンとノックし、中の鈴木さんとなにやら話を始める。

いくつか言葉を交わしたあと、陣さんは携帯を取り出して誰かと電話を始めた。その通話を鈴木さんにも渡したところを見ると、もしかして相手は千里さんの伯母様だろうか。どうやら三者で話し合いをしているようだった。
会話が終わり、陣さんは鈴木さんを連れて戻ってきた。鈴木さんはなぜだか私のバッグを一緒に持ってきた。

「華穂。俺の車に乗れ」

陣さんが高らかに命令する。
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