Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「なんだよ……夕緋、まだあんたのことあきらめてねぇのかよ……」

苛立ちをぶつけるかのようにアクセルを踏み込み、加速させる。
どうやら性格に比例して運転もあまり穏やかではないらしい。ちょっとひやりとした。

「あんたもさ。もうちょっとあいつのことを考えて、距離を取るとかさ」

「そうは言ったんですが……」

「そんな泣きそうなツラしてっから、夕緋がうしろ髪引かれんだろ」

思わずバックミラーを見ると、確かに酷い顔の自分がいた。
自覚がなかっただけにショックだった。こんな顔で御堂さんを追い詰め続けていたなんて。

余計に沈み込んでしまった私を見て、陣さんは「あぁもう」と苛立たしげに吐き捨てる。

「仕方ねぇだろ! 好きになった相手が悪い! 大企業の跡取り息子で、社長で、そんなお高いヤツを庶民のあんたが落とせるわけないだろう!」

そんなこと、言われるまでもなく十分理解できている。
けれど仕方がないじゃないか。好きになった人がたまたまそうだったのだから。
今では、彼の肩書自体が憎らしい。私と彼に圧倒的な距離を知らしめる『御曹司』という肩書きが。

とはいえこれが現実だ。私がどんなに頑張ろうとも、背伸びしようとも、御堂さんの隣に立つことはできない。
私が黙ったまま伏せていると、彼はドア枠に乱暴に肘を乗せ、大きなため息をついた。

「俺だって……どうしてこんな俺がアイツの友人なんかやってんだろうって、わからなくなるときがある」

「……え?」

突然なにを言い出すのか。ポカンとしていると、彼は顔を逸らしてやけっぱちに呟いた。
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