Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「……冗談ですよね」

お願いだから、そうだと言ってほしかった。
驚いたか? バーカ、本気にするなって。――そんな悪戯っ子の顔をして、私をからかってほしかった。
けれど――

「こんな酷いジョーク、さすがの俺でも言わねぇよ」

「嘘……」

あまりにも信じられなくて、思わず手に持っていたバッグを床に落としてしまった。

私や御堂さんを襲ったり、自宅や実家に脅迫まがいの仕掛けを施したのは、全部――

「……全部、陣さんだったんですか?」

「全部、とは少し違うな。夕緋の手を怪我させたのは、本物の通り魔だよ。けど、あんたを襲ったのは俺だ。通り魔に便乗するつもりだったんだが、あっさり夕緋に別人の犯行だって見破られて、正直焦った」

そう答えながら、陣さんは掴んだ私の手首を引き、部屋の奥へと押し込めた。

「そんな……だって、助けてくれたじゃないですか! 御堂さんの事務所の近くで、私が通り魔に襲われたとき――」

「助けたんじゃねぇよ」

陣さんは私を強引に窓辺のサイドテーブルへと座らせた。
背もたれに肘を置き、うしろから覆いかぶさるように耳打ちする。

「逆だよ。あんたをおびき出して、襲ったんだ」

彼の掠れた低い声が恐怖へと形を変え、私の全身を絡めとる。

「あんたと夕緋を引き離す口実を作りだして、協力者に襲わせた。俺が助けに入ったのは、その方が協力者の逃走の手助けもできるし、俺自身が犯人でない証拠になるからだ」

確かにあのとき、陣さんは私ひとりで来いと言った。御堂さんには決して教えるなと……。
事前に私と御堂さんが会う日を確認したのも、全部このためだったんだ……。
< 192 / 249 >

この作品をシェア

pagetop