Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「華穂。やっぱり、俺と付き合えよ」

陣さんの真面目な声に、びくりと肩が震えてしまう。

「御堂さんと私を引き離したくて、そんなことを言ってるんですよね……?」

「最初はな。今は違う」

陣さんが正面に回り込んできて腰を落とした。
ひれ伏すみたいに目の前で膝をついて、私の手をぎゅっと握る。

「俺のこと、優しいって言ってたよな? お前にだけはもっともっと優しくしてやる。だから、夕緋なんて捨てて俺のところに来い」

つい先ほどまで、さんざん酷いことを言って私を脅していたというのに。
突然彼の目が真剣になって、真っ直ぐな告白をしてきたものだから戸惑ってしまった。

「どうして急に、そんなこと……」

「お前が、ほかの女と違うから」

「私は……特別なものなんてなにも――」

「お前なら俺を絶望の底から救ってくれる気がするんだ。頼む……」

まるで助けてくれと言われているようだった。
私なんかが彼の絶望を取り払えるなら、力になってあげたいとも思う。

けれど――。

「……ごめんなさい」

今、私の頭の中には彼がいる。なによりも愛しくて大切な彼が。
例えなにを言われても、どんなに甘い誘惑を囁かれても、この気持を封じ込めることなんてできない。

もし一緒になれなかったとしても、代わりに誰かと付き合って幸せに――なんて思えるような気持ちではなかった。

陣さんは私の瞳を一心に見つめていた。
やがて揺るがない決意を感じ取ったのか、肩を落として力なくうなだれた。

「なんでだよ……」

独り言のように呟くと、立ち上がった陣さんが突然私を抱き上げた。全身がふわりと浮きあがって、陣さんの腕の中に収まる。
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