Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「そんなにあいつがいいのかよ。あんたも所詮、金に目が眩んだ女なのか!?」

「っ違います!」

思いっきり、力の限り、陣さんの身体を突き飛ばした。
彼はわずかに跳ね上がって、私の膝の間に尻餅をつく。
その間に私は上半身を起き上がらせ、力いっぱい叫んだ。

「御堂さんは、人生なめてなんかないですし、苦労知らずでもないです! お父様の力なんて使っていません!」

気がついたら自分が襲われたことよりも、御堂さんが貶められたことの方に腹を立てていた。

「バカみたいに強がりで、恰好つけたがりで、だから誰にもばれないように努力して、無理して、無茶苦茶して、自分の身体を擦り減らすような働き方をして――」

怪我をしても休んでくれないし、妥協するくらいなら平気で何日も徹夜をするし、ヘラヘラした顔で迷いなく自分が傷つく方を選択するし――

「本当は、不器用で、みっともなくて、それなのに私たちには『大丈夫』ばっかり言ってごまかして――」

飄々として見えるのは、それが作りものだからだ。
その仮面を剥がしてみれば、余裕なんか全然なくて、誰よりも真面目で努力家で――
私が好きになった人は、そんな人だ。

「御堂さんは誰よりも、必死に頑張っている人です!」

父親の権力なんかに甘えない。彼はいつだって、自分の荷物は自分で背負って生きてきた。
その結果芽生えた厳しさやプロ意識に、彼自身、首を絞められていたはずだ。
なんの戦いもなしに、居場所を得たわけじゃない。
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