Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「さ。自己紹介はそのくらいにして。佐藤さん、お仕事だよ。彼をうちの部の会議室までご案内して」
「は、はい」

慌てて手を引っ込めて一礼し、彼を来客用のエレベータへと案内する。
長身で背筋のいい彼の歩く姿は、周りのものすべてが色あせて見えるほどに、スマートだった。
デザイナーという職業柄なのか、スーツと呼ぶにはカジュアルなジャケットとパンツ。羽織ったベージュのトレンチコートの裾が、歩くたびに揺れて颯爽と見える。
年齢はおそらく二十代中盤、もしくは後半に差しかかったところだろうか。私とそこまで離れていないだろう。

エレベータを待ちながらちらりと覗き見ると、視線に気づいた彼が、再びあのとろける笑顔を投げかけてきた。
ドキリとして、微笑み返すことすらできず、思わず下を向いて塞ぎ込んでしまった。社交性のない子と思われてしまったかもしれない。

会議室へ着くと、そこには部署のメンバーが待ちかまえていた。

「御堂さん、お忙しいところをご足労いただきありがとうございます」

そう言って一歩前に進み出た女性は、私より年次が十個上の大先輩だ。
すると彼は、先輩の手を取り言った。

「とんでもない。恵子さんのためなら、どこへでも伺いますよ」

あれ?
先輩のことも、名前呼び?

そのうしろにいた女性社員たちにも、彼は忘れず視線を送る。

「純子さんも、相変わらずお美しい。裕子さん、今日は一段と肌が綺麗でいらっしゃいますね」

「まあ!」
「いやだわ御堂さんったらお上手なんだから」

言われた女性社員たちは、まんざらでもない顔で照れ笑いを浮かべた。
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