Melty Smile～あなたなんか好きにならない～
「俺たちが付き合ってること隠してて悪かったよ。でも婚約者のいるお前に、華穂の浮気を責める権利はないよな」

なにも否定しない私をいいことに、陣さんは自信満々に顎をそらせる。

「華穂はいい女だよな。地位も名誉もなにもかも揃ってるお前より、俺を選んでくれるんだと。なぁ、華穂」

頭を撫でる振りをして、陣さんは無理やり私を頷かせた。
胸が抉られるように痛い。
信じないでと叫び出したい。
けれどそれもできなくて、また一筋、瞳から涙がこぼれる。

「……ほら、また泣く」

陣さんが指先で私の頬の涙を拭う。
まるでこれが私たちの日常茶飯事だとでもいうように。

「夕緋、これ以上、華穂を追い詰めないでやってくれ」

次から次へと嘘を上塗りし、陣さんは我がもの顔で私を抱く。
抵抗できないのが悔しくて、吐き気がした。

「陣……」

御堂さんは一心に陣さんを見つめていた。
怒りだろうか、嘆きだろうか、あるいは困惑しているのかもしれない、読み取れない表情のままその場に立ち尽くす。

とどめを指すかのように、陣さんがたたみかけた。

「悪いけど、帰ってくれねぇかな。華穂のことを想うなら、なおさら」

御堂さんの視線が、私へ向く。
救いを求めるような目で、私の言いわけを待っている。
けれど、私はなにも答えることができない。答えては――ならない。

「ごめんなさい……」

それだけ言うと、彼は黙って顔を伏せた。
< 201 / 249 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop