Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
陣さんは御堂さんの横に回りポンと肩を叩く。

「幸せにする相手が違うだろう、夕緋。千里を大切にしてやれよ」

あたかも理解者であるような口ぶりで御堂さんの背中に手を回し、そっと部屋の出口へ押しやろうと――

「なぁ、陣」

けれど、御堂さんはその場から動かなかった。

「俺たちはどれだけの付き合いになるだろう――もう、二十五年か?」

突然振られた脈絡もない話題に陣さんは眉を潜める。

「――なにが言いたい?」

「バカ正直な君の嘘を、見抜けないとでも思ってるのか?」

御堂さんは顔を上げて陣さんを真っ正面から睨みつけた。
瞳にはなににも揺るがない強い意思が宿っている。

「千里から聞いたよ。全部君が仕組んだことだったんだろ」

陣さんがぴくりと反応する。

「千里に、華穂の個人情報を抜き取ってくるように指示したな。データの扱い方をよく知る人物に金を握らせて盗ませるだなんて、卑劣な入れ知恵をして」

陣さんは眉間に皺を寄せながら、首を傾げた。

「人聞き悪いな。千里の方から相談してきたんだ、華穂とコンタクトを取るにはどうすればいいかって」

いいわけを聞いた御堂さんの表情が、未だかつてないくらい険しくなる。

「ごまかすな。……経営に失敗して、借金を抱えたんだってな」

御堂さんの言葉に、今度こそ陣さんは大きく反応した。
ぎりっと歯噛みして睨みつける。その引き攣った表情は、友人に向けるものではない、明らかに敵を威嚇するものだ。
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