Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「華穂は許せるのか? 自分を酷い目に遭わせた男だよ?」

「……はい」

私にもっと酷いことをしようと思えば出来たはずだ。
けれど、陣さんはしなかった。というより、することができなかった。
私にナイフを突きつけておきながら、いざというところで傷つけることを選ばなかったのだ。
その根底にある優しさを信じたい。

「陣さんは心の底から悪い人ではないと思うんです」

知り合ったばかりの私が立てた根拠のない憶測なのに、御堂さんはなんだかうれしそうな顔をする。

「保障するよ。ずっと友人をやってきたんだ」

なにかを思い出すみたいに、御堂さんの顔がわずかに綻ぶ。
懐かしい記憶でも蘇ってきたのかもしれない。なんのしがらみもなく手を取り合えていた、幼い頃のような――。

「できる限り、陣の力になってやろうと思う。借金の問題は簡単に解決することなんてできないと思うけれど、ふたりでなんとか考えるよ。この先、うまくやっていけるように」

「はい」

私がこくんと頷くと、御堂さんは安心したかのようにふっと表情を柔らかくした。
再び歩き出しながら、ちらりと私に目をやって小さく囁く。

「ありがとう、華穂。君がそう言ってくれて、救われた。俺も、陣も」

「え……?」

特別なことを言った覚えはないのだけれど。
首を傾げる私を見て、御堂さんが失笑する。

「普通、あんなことをされたらもう一度信じようなんて思わないだろう」

「……そうでしょうか?」

「華穂が陣を許してくれたから、俺も許せたんだ」

そう言って私の頭の上にぽすんと左手を乗せた。
その感触に先ほどまで強張っていた身体がふっと解れ、緊張が消え失せる。
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