Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
移動中暑かったのだろう、中はエアコンで快適だが、外はうだるような猛暑だ。
はぁ、とため息をついてネクタイを緩めた。

彼には珍しく、サラリーマンらしいお堅いスーツを身に纏っている。
今までデザイン性の高いジャケットやモード系のカーディガンを羽織って働いていた彼。地味な恰好が、まあ似合わないこと。

パーティースーツを着たときはあんなに恰好よく映ったのに、一般的なスーツはどうしてこんなにも合わないのだろうか。
スーツが、彼に負けている。
綺麗な顔立ちや無造作に崩したおしゃれウェーブが浮いていて、どこぞのホストみたいだ。

「お前って本当にスーツが似合わないなあ」

思っていたことを村田さんが代弁してくれた。

「俺は会社勤めするようなタイプじゃないんだ」

御堂さんは、やれやれといった具合に、ジャケットを脱いで肩を回す。
ワイシャツ姿はまだ見るに耐えられる。
これ以上あのジャケット姿を見せられたら、吹き出してしまうところだった。

「それにしても、随分とお早いお帰りで。まさか逃げ帰ってきたんじゃないよな?」

村田さんが意地悪な顔でニッと笑う。
対して彼は、言い返す気力もないという顔でため息をついた。

「逃げ帰りたいくらいだよ。毎日毎日、同じような会議に延々と出席させられて、議題は遅々として進まないし。会議は役員のおじい様方の老後の楽しみじゃないんだからさ。歯がゆいよ。時間だけを浪費している気分だ」

「大企業なんてそんなもんだろ? 貴重な体験をさせてもらえているじゃないか」

村田さんはあくまで他人事で、ハハハと笑っている。
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