Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「無理におしゃれなんてしなくていいんだよ? 俺は見た目で華穂を選んでいるわけじゃないんだから」

「でも――」

好きな人の前で魅力的でいたいと願うのは、普通のことではないだろうか。
けれど夕緋は悲しそうな顔でぎゅっと私を抱き寄せる。

「これ以上、かわいくならないでくれ。心配で離れられなくなる」

思わず千里さんの大予言が思い起こされた。「この服を着たら、きっと夕緋は華穂さんから離れられなくなっちゃいます」だっけ。
恐ろしいほどに彼女の見立てに狂いはない。

「明日、陣と会うときは着替えてくれ。お願いだから」

「……そんなに心配しなくても、陣さんは私に興味なんてありませんよ」

「じゃあ、あのときのキスマークは?」

「え……?」

夕緋は私の首筋に指を当て、不安げに眉尻を下げた。

「陣に連れ去られたときホテルでなにがあったのか、ずっと怖くて聞けなかった」

もう三ヵ月も前だというのに、まだ覚えていただなんて。
その上『怖い』なんて単語が彼から飛び出してきたことに、驚いてしまった。

「あのときの首筋の跡はなんだったの?」

「えっと……」

確かにあのときの紅い痣が陣さんのつけたキスマークであるということは事実で。
なんて説明しようか悩んでいるうちに、夕緋の顔がどんどん絶望的なものに変化していった。
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