Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「……見違えたよ」

そう言って彼は、とびきりの笑顔をくれた。

「すごく綺麗だよ。よく似合ってる」

自分のことは棚に上げてそんなことを言うものだから、まともに彼の目を見ることが出来なくなってしまった。

うしろからスタイリストさんがやってきて、キラキラと光る白金の糸で編み込まれた繊細なショールを差し出した。
代わりに受け取った御堂さんが、私の背後へ回り込み肩にかけてくれる。

彼の腕とショールが、背中から胸元を包み込み、わずかな香りが鼻を掠めた。
薔薇の、優雅で品のいい、それでいて魅惑的な香り。
彼の香水だろうか。今まで気づかなかったから、着替えたときにつけたのかもしれない。

ふり仰いだ先にあった優しくて憂いを帯びた瞳が、私の冷静さを奪っていった。

「またお世辞だと思ってるんだろう? 俺を夢中にさせてるってこと、もっと自覚してほしいな」

そう言って私のこめかみのあたりに、そっと口づけの真似事をする。

スマートすぎる仕草がなんだか悔しい。そして、緊張して動けない自分が情けない。

御堂さんが私の肩に手を置いて、おまじないのように囁いた。

「ちょっとした、ごっこ遊びをしよう。これから一日、俺が君の王子様になる。お姫様の役割は、俺の隣で笑っていること。いいね?」

まだ頷いてもいないのに、彼は私の手を引いて外へと続く扉を開け放った。
胸の高鳴りにどぎまぎしている私を待ってはくれない。
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