Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「千里」

千里さんから少し離れたところに、若草色の着物に身を包んだ品のいい女性が立っていた。

歳は五十代くらいだろうか。背筋がピンと伸びていて、細く長い首に撫で肩のシルエットが和装とよくマッチしている。
若干神経質そうな顔つきの凛とした女性だった。

「伯母さま……」

千里さんは困惑した表情のまま、御堂さんと女性との間で視線を泳がせた。

「お久しぶりです。橘の伯母様」

張り詰めた緊張感をぶち壊し、御堂さんがバカみたいに明るく手を振る。

対照的に、伯母と呼ばれたその女性は、厳しい眼差しをこれっぽっちも崩さず、口を開いた。

「噂は聞きました。随分やんちゃなさっておいでのようですね。ですが、これで済むと思っておいでですか?」

まるで口だけが喋っているかのようだった。頬も目も筋肉がぴくりとも動かず凍り付いたままで、声を荒げてもいないのに怒られているような気がしてくる。
けれど、そんな圧迫感をものともせず、御堂さんはマイペースに答える。

「あなた方の不利益にならないよう、配慮します」

御堂さんの軽い口調に、能面がいっそう迫力を増した。

「口約束でどうにかなる話なら、こんなことにはなっていないのですよ」

「口約束が嫌なら、契約書でもなんでも交わして差し上げましょう。ただし、婚姻届けとは別の書面で。まだ二十歳にも満たない少女を縛り付ける必要などないように」

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