Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
笑顔で言い放った御堂さんの胸に、千里さんが縋りついた。

「夕緋、私、縛り付けられているだなんて、そんな風に思ってなどいません!」

「疑問を抱くことすらできないくらい、周囲の大人たちに利用されてきたんだろう」

「違います、私は――」

「行きましょう、千里」

ふたりのやり取りを無理やり遮って、女性が声を張り上げた。

「これ以上、彼と話をしても無駄です。御堂家のご子息が、そこまで甘い考えの持ち主だとは知りませんでした」

女性は冷ややかに言い放つと、私たちに背を向けて立ち去っていく。

千里さんはすっかり混乱してしまったようだった、彼女のあとを追いかけるべきか、御堂さんのそばにいるべきか、悩むように身を漂わす。
けれど、血縁である伯母を無視することはできなかったらしい。

「ごめんなさい、夕緋、またあとで……!」

千里さんは伯母の後を追うようにしてパーティー会場の奥へと姿を消してしまった。

嵐が過ぎ去ったようだった。私たちの胸に、大きな傷跡を刻み付けて。

御堂さんと私を逃がす理由を失って、陣さんはその場でため息とともにだらしなくしゃがみ込んでしまった。

「お前、もしかして、千里のためにわざとこの女を連れてきたのか? 政略結婚を破談させるために」

陣さんは私を視界の端に捉えながら苦々しい顔で呻く。

「そんなことする必要あったのかよ。だって千里は、お前との結婚を喜んでるんだぜ。お前だって、そのつもりじゃなかったのかよ」
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