Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
突然謝りだした彼にポカンとしていると、察しの悪い私に陣さんは苛々し始めた。

「あんたはなにも知らなかったんだろ!? ……突然婚約者とか、二股とか無神経に騒いで――悪かったな!」

逆ギレしながら謝る彼の姿は矛盾だらけだったけれど、なんだか憎めなかった。
気性が荒くて、素直じゃない、でも悪い人ではないみたいだ。

「いえ。全部事実ですし、私が勝手に混乱しただけですから」

「でも……辛い思いしただろ?」

陣さんが私の頭にポンと手を置いた。
一見すると、私とたいして年も変わらないように見えるのに、お兄さんみたいな顔で見下ろしてくる。
慰められている――そう気がついて、この人は初対面の印象よりもずっと優しい人なんだなと思った。

「本当は……全部嘘なんです」

落ち込んでいたところを不意に優しくされて、つい警戒心が薄れてしまった。
なにも喋るなと言われていたはずなのに、本当のことが口から飛び出す。

「私と御堂さんは、付き合ってなんかいないんです……」

だから陣さんが気に病む必要はないし、悲しくなんかない、そう言おうとしたはずなのに、むしろ陣さんは辛そうな顔をする。

「……じゃあ、余計に、苦しかっただろ。好きなヤツに、婚約者がいるって知って」

私は思わず目を逸らした。
考えたくもなかった事実を真正面から突きつけられてしまった。
< 54 / 249 >

この作品をシェア

pagetop