Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
電話から一週間が経った。
その間、彼からの連絡はなく、怪我がよくなっているのか、生活に支障はないのか、なんの情報も得られなかった。

もしかしたら、これ以上私と関わらないように、あえて連絡を避けているのかもしれない。危険が及ぶからと言って……。
それとも、単純に私のことなんて忘れている……?

彼は忙しい人だもの。社長だし、大企業の跡取り息子だし、周りに女の人なんてたくさんいるだろうから、私に割く時間なんてないのかも。
婚約者だって――千里さんのことだって、あるし――

いずれにせよ、今日は御堂さんが商品開発部のメンバーと打ち合わせをする日。
十四時には訪れるだろうから、嫌でも顔を合わせることになる。

久しぶりの再会だ。それも、あんなことがあったあと、仕事場で。
なんだか少し、緊張してしまう。
私は上手にポーカーフェイスを作ることができるだろうか。


打ち合わせの時間十分前。
デスクの内線電話が鳴り響き、一階来客用受付カウンターの女性スタッフが淑やかな声でアナウンスした。

『デザイン会社M’sの黒木様がいらっしゃいました。お迎えをお願いします』

……え……?
黒木さま……?

困惑しながらも一階に行くと、そこには見覚えのある青年がいた。
御堂さんよりもやや背は低く、年は二十代中盤くらい。
先日、御堂さんのオフィスで叱られていた彼だった。

「初めまして、黒木と申します。本日は御堂の代わりに参りました」

受付カウンターの前で、やや緊張した面持ちで頭を下げた彼。
言葉には出さないまでも明らかに困惑している私へ、彼は「お恥ずかしながら……」と切り出した。

「御堂ですが、実は先日、自身の不注意で怪我をしまして……。たいした怪我ではないのですが、一時的に片手が使えないもので、当面の間は私が外回りを担当することになりました」
< 73 / 249 >

この作品をシェア

pagetop