Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
言われてみればその通りで、包帯グルグル巻きのまま外回りなんてしても、訪ねられた方が迷惑だろう。
そもそも右手が使えなければペンもマウスも握れないし、仕事どころじゃない。

いつもの苛立ちすら覚える軽薄な笑顔に、今日だけは会いたかったのに。
その願いが叶わなくて、ずんと心が重く沈んだ。

私の中の御堂さんの印象は、最後に別れたあの日のままだ。
蒼白に微笑みながら私を安心させようとしてくれた彼――。その悲しい映像を、上書きしてしまいたかったのに。

「じゃあ、御堂さんは、今お仕事をお休みされているんですね」

「いえ、それが……」

私の言葉に黒木さんは、はぁ、と深いため息をこぼしてうなだれた。

「お医者様からは手を動かすなと言われているらしいんですが、昼夜問わずずっと仕事にかかりきりで……」

「……えっ!?」

思わず聞き返してしまった私へ、彼は腕を組み、困り顔でうんうんと頷いた。

「ちょうどデザイナーと総務の社員がタイミング悪く辞めてしまったものですから、その負担を肩代わりして、ろくに休みも取らず働いて――って、ごめんなさい! こんなことお客様に言っちゃ、マズいですよね!?」

途中でハッと我に返った黒木さんが、あわあわと弁解を始める。
もしかして彼は考える前に口に出してしまうタイプなのだろうか。

「……ああ、こんなこと喋ったってバレたら、また怒られるかも……」

他言無用でお願いしますね、と顔の前で手のひらを合わせて、ぺこぺこと平謝りする黒木さん。

彼からの思わぬ情報に、不安が和らぐどころかいっそう増してしまった。またそんな無茶をしているのか。
それでいて私には、全然頑張ってないよ、なんて余裕の表情で嘘をつくに違いない。

本っ当に、酷い人だ。
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