Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「仕事ができないくらいの酷い怪我だなんて、心配です」

あくまで『私は事情を知りません』という体で言葉を選んでみたのだけれど、田所部長はいっそう興味深そうにして私を眺めた。

「そうだよなぁ。佐藤さんはそういうところ、あるよなぁ。普段は嫌いとか苦手とかさんざん言ってるくせに、気になって仕方がないんだろう、いじらしいなぁ」

顎を撫でながら、なにか言いたげだ。
いったい今日はどうしたんだろう。飲みの席で『お前、まだ彼氏はできないのか!?もったいない、若さとかわいさの浪費だなオイ』と絡んでくるときみたいな顔をしている。

「素直な佐藤さんに免じて、オッサンが手助けしてあげちゃおうかな」

「は、はい……?」

なんだか気持ちの悪い笑みをにんまりと浮かべて、田所部長は腕を組んだ。

「部を代表して、お見舞いに行ってくるか? 本来そこまでする必要はないんだが、御堂くんには結構世話になってるし、人情でわがまま聞いてもらってるところもあるし、うん、それがいいだろう。不自然ではないよな」

考えながら、うんうん、と自分を納得させるように頷く。

「もちろん、正式な仕事ではないから、佐藤さんが忙しいとか嫌だっていうなら、断ってくれてもかまわない。……どうする?」

私を挑発するような眼差しで首を傾げる。

仕事なら、堂々と会えるし、お礼も言える。
田所部長のドヤ顔がなんだかちょっと癪で、素直に従うのは憚られるけれど――きっともやもやしている私のために用意してくれた口実なのだろう。

「……行かせてください」

私の答えに田所部長は満足そうに笑った。

「……うちのかわいい総務がお見舞いに行きますって、アポ取っとくわ」

そんなことを言いながら、彼は自席へと戻っていった。
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