Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
御堂さんはプロだけあって、作業のスピードがとにかく早い。ソフトの使い方も手慣れていて、学校でちょっとかじった程度の私とは比べ物にならなかった。

とはいえ、右手がうまく使えないというハンデを背負っている今は、右クリックと左クリックを間違えたり、違う場所を押してしまったり、歯がゆそうに唇を尖らせることが何度かあった。
特に文字入力に関しては、包帯グルグル巻きの右手では太刀打ちできず、厳しそうだ。

「やっぱりその手じゃ、仕事は辛そうですね」

「特に事務仕事となると、キーボード入力ばかりで手がつけられない」

「事務仕事まで、御堂さんが肩代わりしているんですか?」

「……村田さんと俺で分担してって感じかな。全部彼に丸投げするわけにもいかないからね」

御堂さんはパソコンチェアの背もたれに寄りかかり、私の差し出す焼き菓子をパクリと頬張りながら、大きく伸びをした。

「示し合わせたかのように、デザイナーが辞め、事務まで行方をくらました。これで済むと思うなと言われたけれど、まさかこう来るとはね」

なんのことを言っているのだろう、耳を澄ませなければ聞こえないような声で呟いて、納得したみたいにため息をつく。

「デザイナーさんの仕事も、肩代わりしているって聞きましたけど……」

「……それもみんなで分担はしているけれど。バイネームで依頼された仕事の代役となると、当人より役職の低い者に任せるんじゃクライアントに示しがつかないからね。そうすると自然と、俺になる」

「……そうなんですね」

ということはつまり、手を怪我して能率が落ちている上に、ふたり分の仕事をこなさなければならないわけだ。
その上、事務仕事まで。
今の御堂さんの肩には、休む暇もないほど多くの仕事が積み重なっている……。
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