Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「私じゃお手伝いできませんか? 事務仕事だけでも」

デザインの仕事は手伝えないけれど、事務ならできるはずだ。
怪我を負わせてしまったという負い目もあるし、なによりこれ以上、無理し続ける御堂さんを見ていられない。

けれど、彼は私の申し出を丁寧に辞退した。

「華穂ちゃんに迷惑をかけるわけにはいかないよ。これはうちの会社の問題だから」

「『あーん』してって言われるほうが、よっぽど迷惑です」

御堂さんが目を逸らした。

「……この形状、コストかかり過ぎるかな」

私の声は聞こえなかった振りで、デザイン案を見つめ唸る。都合が悪くなると話を逸らすのが彼の常套手段だ。

「これでも一応、四年間、事務や経理補佐をやってきました。それなりに役に立てると思います」

「……役に立たないから断っているわけではないよ。君は『トレジャーフィル』の社員だろう? 別の会社の仕事に手を出したら、服務規程違反になるんじゃないかな? 副職、アルバイトは禁止されているでしょう」

「……それは……」

鋭いところを指摘され、うつむき口ごもる私。能天気な顔をして、意外とこういうところはしっかりしている。

「それに、うちの会社の収支状況も他社の社員にバレてしまうことになるからね。セキュリティ上の問題もある」

そこまで明確な理由を突きつけられてしまった以上、もう出しゃばることはできない。

「……そうですよね」私の暗い声を最後に、オフィスがしんと静まり返った。
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