Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
沈黙を破ったのは黒木さんだった。

「――社長って、社外の女の子まで理論攻めにするんですね」

「……!?」

御堂さんがぴくりと反応して顔を上げた。
その視線に怯えるように黒木さんは首を竦めて、それでもおっかなびっくり、顔色をうかがいながら言葉を続ける。

「せっかく手伝いたいって言ってくれてるのに。そういうとこ、ちょっと無神経っていうか、融通が利かないっていうか、怪我してる御堂さんの力になりたいっていう乙女心わかんないですかね――」

今、結構酷いこと言ったよ……? 仮にも自分の会社の社長に『無神経』とか『融通が利かない』とか、なかなか言えるもんじゃない。

ぴくん、と御堂さんが肩を震わせたのを見て、黒木さんは「す、すみません」と慌てて仕事に戻る。謝るくらいなら、言わなきゃいいのに。

その上、村田さんまで書類を御堂さんのデスクに運びがてら口添えする。

「うちは規則をどうこう言うようなお堅い会社じゃないだろう。少しだけ、彼女の申し出に甘えてみたらどうだ? 正直、今のお前は無茶しすぎだ。見ているこっちが辛い」

ふたりから責められ、さすがの御堂さんも苦い顔をした。
しばらく考えたあと、ちょっと情けなく笑って、甘えるような上目遣いを私に向けた。

「……簡単な事務作業だけ、お願いしてもいい……?」

「はい!」

とはいえ、今日はもう遅い時間なので、明日改めて手伝わせてもらうことになった。
明日は祝日。本職である会社も休みだ。丸一日手伝うことができる。
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