Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「ごめん、せっかくの休日を潰してしまって――」

「これくらい、なんてことありませんよ」

助けてもらった恩返しができるなら、休日一日差し出すくらいどうってことない。少しでも彼の力になりたかった。

「それから――」

私は彼の耳元で、他の人たちには聞こえないように、小声で囁いた。

「――あのとき、命がけで私を守ってくれて、ありがとうございました」

――すごく、すごく感謝しています。

ずっと言えなかった『ありがとう』の言葉。やっと伝えることができて、スッと心が軽くなった。

御堂さんは意外だったのか、ちょっと驚いた顔で私を見つめた。
それから。不意に手を伸ばしてきて、私の頬にそっと添えて、そして――

え……?

急にキスしてこようとしたから、私は慌てて飛びのいた。

「ちょっ、待っ、なんなんですか!?」

御堂さんがわざとらしいとぼけた顔で首を傾げる。

「今、俺の耳元でキスしてって言わなかった?」

「言ってません! 全然違います! 一文字も合ってません」

「解釈すると、そうならない?」

「なりません! どう飛躍してもそうはなりません!」

「そう? おかしいなぁ……」

しれっとそんなことを言って、頬をかく。
この人、絶対わざとやってる……!

いっつもそうなんだから。真面目に言っても、すっとぼけた振りでごまかして。
私の感謝の気持ちは、ちょっとは彼に届いたのだろうか。

届いてる……よね?

飄々とした彼の横顔をうかがいながら、もうひとつだけ、焼き菓子を口もとに持っていってあげた。
彼は差し出されたそれにパクリとかぶりつきながら、私に向かって、お菓子よりもずっと甘くて柔らかい、とろけそうな微笑みを向けた。
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