Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
翌朝、御堂さんのオフィスに顔をだした私は、彼の指示のもと事務作業のお手伝いを始めた。
だいたいのことは普段こなしている仕事を応用すればなんとかなったし、わからないところは御堂さんがひとつひとつ丁寧に指示を出してくれた。

祝日である今日も出社しているのは、御堂さんと黒木さん、そしてお手伝いの私だけ。
その黒木さんも今はお昼を食べに外出してしまっているから、二階のオフィスには私と御堂さんのふたりしかいない。

周りに誰もいないこのタイミングを見計らって、御堂さんはなぜこの『デザイン会社 M’s』の社員が示し合わせたかのように姿をくらましたのか、推測を聞かせてくれた。

「じゃあ、デザイナーや事務の社員さんが辞めたのは、全部千里さんの伯母さんのせいだっていうんですか!?」

「確証はないけれどね。あの伯母さん、いかにも陰湿そうな顔してただろう?」

パーティー会場で出会った凛とした淑女を思い浮かべながら、確かに厳しそうな女性ではあったなあと再確認した。
かといって悪事を働きそうかと言われればなんとも言えず、同意しかねていると「華穂ちゃんは人を疑わなそうだからねぇ……」なんてクスクスと笑われた。

「伯母さんは、俺が父の跡を継がないと言い出すのを、危惧しているのかもしれない」

「御堂さんが会社を継ぐことと千里さんの伯母さんになんの関係があるんですか?」

「俺が千里と結婚して会社を継げば、向こうの家族が経営する会社も安泰だからね。どうやら資金繰りが上手くいっていないらしい。俺との政略結婚のおまけでついてくる契約締結が、最後の砦なのかもしれない」

御堂さんのデスクの上には市販のお弁当が置かれていて、彼は昨日みたいに口をあんぐりと開いた。
……まさか、また『あーん』してくれって言ってる……?
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