Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
私が差し出した箸の上の白米にかぶりつきながら、彼は真面目な顔で言う。

「俺個人の抱える会社を潰して居場所を失くせば、父の会社に戻ると思っているのかもしれない。あるいは、単純に婚約を破棄しようとした腹いせか……」

次いでチンジャオロースを運んであげる。
どうしてわざわざこんなに食べにくいメニューを選んだのだろう。
利き手を怪我した状態で上手く箸が使えないことはわかりきっているのに。
片手で食べられるおにぎりやサンドイッチにするとか、もしくは箸じゃなくてスプーンやフォークを貰うとか……。
これはある意味、私への当てつけかな……?

「でも、そんなにうまくいきますか? 社員の方々も、そう簡単に仕事を捨てて伯母さんの悪事に加担するでしょうか……?」

「簡単なことだよ。もっといい就職先を斡旋して、もう俺のところには戻るなと口添えすればいい。そこまでしなくても、ある程度金を積めば要求を飲むやつもいるだろうし……そう言えばデザイナーの彼、不倫していたな。不倫相手との決定的な証拠を掴んで脅すっていう選択肢も――」

「どうしてそんなに悪どい手法を思いつくんですか」

彼の左手にお茶のカップを押し付けると『えっ、飲ませてくれないの?』みたいな驚きの顔で見られてしまった。
このくらい自分で飲めるだろう、私は無視することにした。

「そもそも御堂さんはお父様の会社を継ぐ気はあるんですか?」

「そのときが来れば、ね。けど、まだまだ親父は元気だし、代替わりなんて先の話だ。それまで自由にやらせてもらう約束になっている。なのに突然婚約の話なんか……」

仕方なく自力でお茶を飲みながら、御堂さんはわずかに視線を鋭くした。

「その婚約は、御堂さんのお父様にもメリットがあるんですか?」

「いや。単純に早く孫の顔がみたいとか、そんな理由じゃないかな。千里が相手なら安心だったのかもしれない」

まぁ心配させる俺も悪いけどね、なんてこぼしながら、御堂さんは深くため息をついた。
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