Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「いずれにせよ、仕事も結婚も全部自分で決めることだ。俺の自由は、誰にも渡さないよ」

意思の強い瞳で、御堂さんは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

「親に従うつもりなんてない。悩んだ末に自ら千里を選んだっていうならまだしも――」

「それって、千里さんと結婚してもいいって思ってるってことですか?」

「華穂ちゃんが俺と結婚を前提に付き合ってくれるっていうのなら、考え直す」

「絶対言わないので安心してください」

「……そう言うと思った」

クスリとひとつ笑みを零す。
冗談でも、ちょっぴり胸が痛んだ。

御堂さんが再びパソコンに向き合った。お仕事再開の合図だ。
空のお弁当箱を片付けたあと、給湯室でコーヒーを淹れた。頼まれたわけではないけれど、昨日も飲んでいたからきっと今日も飲むだろう。

コーヒーメーカーにお湯を注ぎながら、結局、御堂さんは千里さんのことが好きなのだろうかなんてぼんやりと考えていた。
今は先延ばしにしていても、いずれお互いの同意のもと、結婚する日がくるのかもしれない。

あのとき、私がすべてだなんて言ってくれたのは、やはりその場しのぎだったんだ。
わかっていたはずなのに、胸に靄がかかったように気分が晴れない。

御堂さんのデスクの上にそっとコーヒーを置くと、彼は視線をパソコンからちょっとだけ外して私を見上げた。

「ありがとう。華穂ちゃんのそういうさりげなく優しいところ、大好きだよ」

漆黒の大人びた瞳が、キラキラと輝いて見えた。
そんなこと、軽々しく言わないでよ。思ってもないくせに。
適当に言っているとわかっていたので、返事もしなかった。胸の靄はいっそう深くなった気がする。
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