Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
振り返った私へ御堂さんは、携帯電話をひらひらと振りながら、にっこりと笑って見せた。
「華穂ちゃん、連絡先教えてよ」
今日イチの苛立ちが押し寄せてきて、もはや、言葉を返すのすら面倒くさい。
「……失礼します」
「待って待ってー! お仕事のお話だよ、お・し・ご・と! ほら、この会社って、定時の十七時過ぎると留守電になっちゃうでしょ? 遅い時間に連絡取りたいとき、困っちゃうんだよね」
「それなら、開発部の方――田所部長や村瀬さんに連絡先を聞いてください。私は関係ありませんので」
「彼ら繋がらないことが多くて。まだ会社にいるか、退社したかくらいの情報でいいから、教えてほしいんだよね。華穂ちゃんなら、社員みんなの居場所、把握してるでしょ? 開発部付けの、優秀な総務さんだもんね」
『優秀な総務』だなんて引き合いに出されて、、思わず返す言葉に悩んでしまう。
とはいえ、こんな人にプライベートの番号なんて教えたくはない。
週一程度の送り迎えでさえ憂鬱なのに、電話までかかってこようものなら、ノイローゼになってしまうかもしれない。
「……私、定時には帰りますから、ご期待には添えないかと――」
「いつも開発部のみんなの仕事を夜遅くまでお手伝いしてるんだって? 自分の仕事でもないのに、エライねえ」
言いわけが封じられた上に、またしてもお世辞で塗り固められてしまった。
御堂さんが、ニッコリと微笑む。ここまで胡散くさい笑顔を見たのは、生まれて初めてだ。
そのとき。
「お待たせしてすみません。会議、始めましょうか!」
よく通る大きな声とともに勢いよく部屋に飛び込んできたのは、田所部長とその部下数名。
田所部長は、まだ三十代半ばにして現在の地位にまで登り詰めた、やり手である。
威厳たっぷりの姿勢と顔つき。その割に親しみやすい性格の人情家だ。
「華穂ちゃん、連絡先教えてよ」
今日イチの苛立ちが押し寄せてきて、もはや、言葉を返すのすら面倒くさい。
「……失礼します」
「待って待ってー! お仕事のお話だよ、お・し・ご・と! ほら、この会社って、定時の十七時過ぎると留守電になっちゃうでしょ? 遅い時間に連絡取りたいとき、困っちゃうんだよね」
「それなら、開発部の方――田所部長や村瀬さんに連絡先を聞いてください。私は関係ありませんので」
「彼ら繋がらないことが多くて。まだ会社にいるか、退社したかくらいの情報でいいから、教えてほしいんだよね。華穂ちゃんなら、社員みんなの居場所、把握してるでしょ? 開発部付けの、優秀な総務さんだもんね」
『優秀な総務』だなんて引き合いに出されて、、思わず返す言葉に悩んでしまう。
とはいえ、こんな人にプライベートの番号なんて教えたくはない。
週一程度の送り迎えでさえ憂鬱なのに、電話までかかってこようものなら、ノイローゼになってしまうかもしれない。
「……私、定時には帰りますから、ご期待には添えないかと――」
「いつも開発部のみんなの仕事を夜遅くまでお手伝いしてるんだって? 自分の仕事でもないのに、エライねえ」
言いわけが封じられた上に、またしてもお世辞で塗り固められてしまった。
御堂さんが、ニッコリと微笑む。ここまで胡散くさい笑顔を見たのは、生まれて初めてだ。
そのとき。
「お待たせしてすみません。会議、始めましょうか!」
よく通る大きな声とともに勢いよく部屋に飛び込んできたのは、田所部長とその部下数名。
田所部長は、まだ三十代半ばにして現在の地位にまで登り詰めた、やり手である。
威厳たっぷりの姿勢と顔つき。その割に親しみやすい性格の人情家だ。